「どうも天狗Aです。こんにちは」
ピシャリと、教室の扉を開ける音が乾いた空気を伝う。息も凍る冬の日、暗い空模様。
「あら、今日は早いのね」
「そうですか?」
僕は敢えてとぼけてみせた。
昨日あんな事があったんだ。いつもみたくゆっくりとする心の余裕は残っていなかった。
「……ねえ、もしかして貴方」
「いや、やっぱり何でもないわ」
均一に並べられた机、逆さに乗せられた椅子。窓の外は今日も見えない。
少女は身体を失った。
行き場を失った心は機械に宿った。
少年は心を失った。
残ったのは、一見ごく普通の人間だった。言うなれば、良く出来た人形だ。
「天狗A…だっけ?」
「はい。そうです」
「君に青空はどう見えてるの?」
機械の指が、窓の外を指した。
真っ暗。何一つとして認識できやしない。言うなれば、黒?というか、空って何なんだろう…。
「そうですね……」
「あまりにも美しく、そしてあまりにも眩しい」
「そっか、」
おわり